「妊活」の言葉は、すっかり一般的になった。不妊治療に保険が適用されるようになり、生殖医療の高度な技術の進化も目覚ましい。妊娠の悩みを取り巻く状況は大きく変わってきた。しかし院内に妊活の悩み相談を受ける「不妊ルーム」を設け、20年超で約9千組へのカウンセリングを行った、こまえクリニック(東京都狛江市)の放生勲院長は「心理面や経済面で妊活や不妊治療へのハードルが下がる一方で、逆に妊娠が遠のいているような状況が見受けられる」と危惧する。なぜ逆説的なことになっているのかを聞いた。
こだわるあまりの本末転倒
――「不妊治療不妊」や「不妊治療シンドローム」といった言葉を提唱しています。
「『不妊ルーム』を開設したのは2000年。まだ『妊活』という言葉はなく、不妊治療も今ほどは周知されていませんでした。私自身も患者として不妊治療を経験しましたが、当時は妊婦さんと同じ待合室で待機するような状況でした。治療ものんびりしていて、最初の1年ほどは妊娠しやすい時期にセックスを行うタイミング法、それでだめなら第2段階で人工授精を5~6回、それでもだめなら第3段階で体外受精を検討するというのが一般的でした」
「しかし今はその流れが加速度的に速くなりました。妊活や不妊治療についての情報があふれ、食事や運動のバランスだけでなくサプリメントを活用し、卵子の老化も気にされます。保険適用で経済的負担も減ったことで、以前なら考えられないほど早い段階で体外受精・顕微授精などの高度生殖医療に進む人が増えました。最近は20代で体外受精に進む人も珍しくありません」
「私は体外受精を否定しませんので、こうした変化によって妊娠が可能になった人がいるのは喜ばしいことです。一方で、多くのカップルにとっては逆にストレスがかかっているのではないかと感じています。これを『不妊症不妊』と私は呼んでいます」
――具体的にはどういうことでしょうか?
「妊活を始めるとセックスが…